自家製麺での試行錯誤
製麺所を作るにあたり、まず最初に小さな工場を借り、製麺機を1台購入しました。小麦粉、カン水、そして製麺技術についてやることは山ほどあり、1年くらいはまともに寝た記憶が無いくらい猛勉強しました。
1年くらいやっていると、だんだんと粉の配合やカン水などはコツをつかんできたのですが、最後にやはり製麺の技術的なことがどうしてもうまくいきませんでした。家系の麺には他の麺とは違い「逆切り」という特殊な技術が使われており、これが家系の麺の特長である、ある程度の太さがありながらゆで時間を短縮し、独自の食感を生み出します。当時の製麺会社さんでこの技術を持っているのは自分の知る限りでは1社しかありませんでした。
自分の製麺がうまくいかないのは機械のせいだと思い、機械の改造などをし何台かダメにしたり、新しい機械に買い替えたりして、もうその時点で1千万円以上は使っていました。そんな中、今思えば運が良かったとしか思えないのですが、ある失敗から急に逆切りができるようになりました。これは今でも社内の人間ですら数人しか知らないトップシークレットなので、公表することはできないのですが、本当に運が良かったとしか思えない出来事でした。
あの当時あのままで出来なかったら、金銭的な面から言っても店がつぶれてもおかしくないくらいの状態でした。まだ完璧とは言えないまでも納得いくレベルの麺を作れるようになりましたが、いざ自家製麺に踏み切ろうとした時に自分の中でものすごい葛藤がありました。
今まで育ててもらったのは間違いなく吉村家のおかげであり、吉村社長には多大なる恩を感じていましたが、弟子との約束も果たしてやりたい。自分にとっては親を取るか子を取るかの苦渋の決断でした。これは誰が見ても裏切り行為であり、理解してもらえるとは思っていません。しかし、今でも吉村社長に対する尊敬の念と感謝を忘れたことは一度もありません。
吉村社長にいただいたこの素晴らしい味・技術をより良いものにし、次の世代に伝えていくことが今の自分の仕事だと思っています。そして、それが自分にできる最大の恩返しだと思っています。理解してもらえないのも承知の上ですが、一度自分が決めた道、トコトンやり通したい。今はその思いだけです。
王道家今月のサービス
王道家今月のサービスは、カレーつけ麺です。今回はスパイス会社ケー・アイ・エスさんのご協力で、十数種類のインド風スパイスを配合してもらいました。オリジナリティのあるつけ麺です。是非ご賞味ください。
次回更新は8月15日頃の予定です。柏店のオープン予定日をお知らせできると思います。